苗場山は天空の楽園だった。 小赤沢コースは、6合目から8合目まではずっと急な登り続きであり、しかも登山道がジメジメしていて湿度が高いことから、足下も滑りやすく、快適な登山とは言えない。 祓川コースは結構展望も楽しめ、山好きには持ってこいかとも思え、しかも関東地方からのアプローチも良いから、まずはそちらからの登山を考えるのだろう。 NHKの名作、「深田久弥の日本百名山」では、山小屋の管理人高波菊男さんが祓川コースを紹介されていた。3年ほど前に「小さな旅 山の歌」で苗場山が登場し、その時会社の方針で山小屋を閉じる、という話で寂しく思ったのだが、その山小屋こそ遊仙閣だったわけか。 小さな旅で高波さんは61歳と紹介されており、日本百名山の頃はまだ50歳そこそこだったのだろうか、随分と違った印象ではじめは同じ方とは思えなかった。しかし、よく確認するとそれなりの時間が流れたのだということを悟らされた。苗場山の登山を支えてこられたわけだ。 そのようなことから、苗場山は祓川コースしか頭に浮かばなかったのだが、最後に小赤沢コースへ変更したのだった。途中で出会った人からは、日本海側にお住まいですかなどと聞かれたので、太平洋側方面の人はやっぱり祓川コースが主流なのだろう。 小赤沢コースの場合は展望がほとんど楽しめず、樹林の中から突然8合目で天を突き抜けたような、深田久弥曰く「鯨の背のような膨大な図体」の山頂平原にでるものだから、感動と驚きがあった。 急登が急に平原の木道歩きに変わるのだ。 苗場山はその山頂の大平原が大きないけすのように雨水や雪解け水を満々とたたえているような感じであり、日射により蒸発もするのだろうがなくならないのだから不思議であった。つまり、それだけの水分が供給されていることになり、それは地下水なのか霧なのか雨なのかである。 2000mを越える高さを誇る高層湿原がそこにはあるわけで、日本でこれ程のところは他にはないような独特の風景だった。 小赤沢コースから登山して良かったことは、祓川コースよりも時間を若干短縮できたことと、山頂部の湿原の木道を長い時間あるいて苗場山を満喫できたことだ。特に、点在する池塘を眺めるということは下界では考えられないほど癒しになった。 あのような美しい自然を見ていると、日常のことを忘れてしまう。 山頂はというと、樹林の中で展望はきかないが、山頂付近から見渡す苗場山山頂大湿原は何にも代え難い、天に浮かぶ楽園のようであった。 |